大雨の中 傘の持つ手まで濡れたな と思ったら
上から伝ってくる・・・雨漏りしているのだった。
ふと その傘の 中心部に つぎ当てた布が・・・
ああ、これも 傘直しの おんちゃんが やってくれてたんだなあと 思い出す。
20年近く前のこと
お気に入りの傘の骨が折れて でも 捨てるに偲びず だましだまし使っていたら
ご近所さんから「傘直しのおじいさんが 時々うちにくるから 森さんとこにも寄るように いっといてあげる」と 言われた。
いつ来るかと 訊いたら
「いつも 突然来るから わからない」とのこと。
そんな話を忘れかけた頃 突然 ふう と そのおんちゃんはやってきた
お気に入りの傘・・・表が 真っ黒で 内側は銀色地に 古い海図のようなものが描いてあって 骨が黒・・・を 見せた
「ああ、こりゃ いい骨使ってんだ。直せねぐはねえげんとも 黒い骨は無ぇな・・・んでも 良げれば・・・」
こちらの 返事を 待たぬうちに すい と 傘を 摑んで 行ってしまった
すんごく高いんだろうか いつ直るんだろうか・・・など 何も訊けぬまま。
数日後 おんちゃん 再来
さっそく 傘 開いたらば 黒骨の折れてた真ん中
銀色の金具で がっつり 接いでありました・・・あああ ちと 残念感
でも ちゃんと使える うれしい。
よく見ると てっぺんのところも 黒布で つぎはぎ縫いしてあった。
「そっから 漏ってくっから 縫ったったいん。」
ありがたし。
で、なんぼですの?と 訊いたら「30円」とな 安い!
ありがとうございましたと 下げた頭を あげると
おんちゃん、うちの傘たての中の 何本かを 物色して
「なんだ こいづも 曲がってっから 直しとっから」と またもや すい・・・と ぬいて 持って行った。
おおお 商売上手!しかし 採算は合うまいよ。
その次 おんちゃんが来た時は わたくしおらず
ばあちゃんが 出て行ったら いきなり「30円」といわれて びっくりしたと。
でも事情聞いて ばあちゃんも 何本か 傘を 預けたらしい。
誰もいないと 直った傘を 置いていって
気になる傘があると 勝手に持って行ってまた直してくれていた様子。
で、どれの分を 支払って どれが 未払いか もうわからなくなっちまってた。
そんな 細かいこと 頓着しない様子の おんちゃんと うちの 不思議なやり取りは
しばらく続いた。
壊れた傘も無いからなのか
いつのまにか おんちゃんが 来ているのか来ていないのか わからなくなり
ある日 傘の骨が曲がっていることに気付き
そういやおんちゃんこのごろどうしているんだろ 頼みたい傘が たまってるな
・・・と ちゃんとした名前も 連絡先もわからないので、ご近所さんに聞いてみた。
「この頃 うちにも来なくて・・・。住んでるの〇〇のあたりらしいから 訊いてみるからね」 そのかたも よくわかっていなかったらしい。
程なくして 少しまえに 亡くなったらしい という 知らせ。
いつも 思い出していたわけではないくせに
骨が折れても もう直してもらえないんだ・・・などと 大きな 喪失感。
今も 黒骨の 銀接ぎ傘・・・別のところが折れたまま 使っている
また おんちゃんが ふう と 風みたく やってきて
黙って直してくれるような 気がして 待っている。