その子の名は

二ミリにも 満たない 羽虫 
まるで 幻灯機の 横にもれ出た 光が 見せた 影のような
うっすらと 儚げなもの
本に はたり と 舞い降りたのを 払いのけようとすると
力も入れぬのに 一瞬にして 一筆試し書きのような 一筋の線に 果てる
この子の名は なんだろう
虫好きで この子を研究している人もいるのだろうか?
いや そもそも 人が勝手につけるなまえなど 重要でもなんでもないのだけれど
うっかり 本を 閉じて 押し花・押し絵ならぬ 押し虫にしてしまう
申し訳なさが 薄まるわけではないけれど
誰か このこの ささやかな生に 光を当ててくれ と 思う

コメント / トラックバック 2 件

  1. akaru より:

    むか~し昔、昭和55年に書いた一文を思い出しました。古いコピー持ち出して、書き写します。
    「小さな古本屋で求めた達治の詩集。すでに黄色く変色し、昭和十四年六月三日第二刷とある。私はまだ生まれていない。中ほどの頁を開くと、ハラリと塵が落ちた。塵に見たのは、平らになった小さな蚊。そして見開きの双方、同じ所に小さなしみ。蚊取り線香の匂いがしそうである。」

    • bunbun より:

      もしかしたら それは 達治の 言の葉の変化(へんげ)だったのでしょうか
      かつての 読み人と akaruさんを つなぐ 姿
      そこに 目を留めて 匂いまで 感じる akaruさんの 思いや 嗅覚が
      本の上から 蚊の姿へと 踊り飛び交う様が なんとも しなやかだわ~と
      しみじみ 感じ入りました

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