
思い出しただけで 泣いてしまうことがある
たとえば なつかしくやさしい あの人
去年の五月から 帰ってこない 猫の ぴっちっちっ
思い出したら 泣いてしまいそうなのに 涙も出てこないこともある
たとえば たくさんの人の前で 愚弄されたこと
異国の町中で もう 愛はない と 置き去りにした人
この違いはなんなのだろう
そのひととき そこに とどまろうという 思いは あった
愛しさがあったのだ
涙もあったのだけれど…
もうここにはないことは 同じ
でも やはり 今も 愛があるかどうか なのかもしれないな
涙を生むのは 愛なのか
玉葱 お前は 愛なのか?
いやいや
刺激物から 己を 守ろうとする この身への 愛なのだろうよ
かつて 思考の 表皮を
剥いて 剥いて 剥いてゆく 探索の
剥き散らかした 玉葱の 散乱のような まなかに 立ち尽くして 途方に暮れたこたえのようなものが
ふと 染み出してきた
ちと 酔っぱらったのかも
冷たい水 呑んで
くちもとと 目頭など 拭う 夕暮れ