障子の陰の おひめさま

昔 ばあちゃんが ざくろのことを そんなふうにいうんだよ・・・と 教えてくれた。
なにやら 怖いような なまめかしいような
どきどきした 覚えがある。
近所に なっているのを こっそり つまんだっけ。
まるまる 一個 もいでしまったらいけないと思って 割れたあたりからのぞく 一粒を 
そっと取り出そうとして 大抵失敗して、手についた 汁を ちょ と 舐めるだけ。
幼稚園の時 いっこ上の 「すみれ組」の やさしいゆうこおねえさんが
「あげるね」てくれた つぶれてない つやつやぴちっとした ざくろ一粒
ちょっと 憧れのお姉さんで
あこがれの つやつや一粒で
すぐ食べるに 惜しくて
ひとなめして
もすこしがまん・・・と
幼稚園バッグの 外ポケットに そっとしまった。
しばらくは あたし きらきら宝石みたいなざくろ持ってる!と こっそり 誇らしかった。
誰かに言うと 盗られてしまうのではないか・・・と心配で、言いたいような 言いたくないような日々。
でもいつの間にか忘れ去ってて
あるとき 持ち物自慢大会みたいなことが始まって
「わたしこんなの持ってるんだァ」「こんなのみつけたんだ」なんて中に 巻き込まれて
そういえば・・・と ざくろのことを思い出して
あ、あたし・・・と カバンポケに手を入れて探ったら・・・?
無い! きらきらを ねたむ誰かが 黙って持ち出しちゃったんぢゃないか?と
中を覗くと、ざくろがつぶれたであろう ちっこいしみが 底の方に
あと、ゴマ粒みたいの・・・種?
もう もらってから何ヶ月もたってたかな。
あたし・・・のあとの二の句が接げなくて そっとその場を去った。
儚い 憧れのまま 消えたので
ざくろのきらきらは ずっと憧れだった。
さっき あんちゃが 「君に半分のこしておいたよ」と 外国のざくろ。
アメリカンチェリーもそうだけど、なんだか 赤黒くて ぼんやり大味に甘く
種も 白っぱすぎて 姫というような品は感じないけど
壁から はらはら はがすとき
つぶさないように・・・のどきどきや
つやぴかなてざわりには ちょっと うっとりしちゃう。

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